連載エッセイ<ナスカの地上絵のように~再会>

前回までのあらすじ/毎年この大会に選手として参加している僕は、昨年、空から落ちてきた1枚の紙切れを手にする。そこには、ある問いが書かれていた。その答えを探しに僕は旅に出た)

■再会した友人は、なぜ「生駒さん」に夢中だったのか?

1枚の紙切れが手の中にある。
こう書かれている。

【①サッカー②ハッカー③ロッカー、仲間外れはどれだ?】

これは、1年前にここで手にしたものだ。
あれからずっと答えを探している。
答えはまだ、見つかっていない。

「友よ!久しぶり。元気だったか?」と背中を叩かれた。
1年ぶりに再会する友人の最初の挨拶は、一昨年も、昨年も、そして今年も同じだ。
変わらない挨拶に触れ、変わらないグランドに足を踏み入れて再び、今年もこのサッカー大会に帰って来たんだと喜びを実感できる。
「俺ね、変わっちゃたんだよ。いまは、イコマちゃんなんだ」と友人。
変わらない感動をかみしめていた刹那、この仕打ちだ。
昨年はAKBの板野さんがお気に入りと言っていたような気がするが、もう変わってしまったらしい。
「イコマちゃんって誰?生駒佳代子さん?」
「誰?それ。いまイコマちゃんって言ったら、『乃木坂46』の生駒里奈ちゃんのことだよ」と写真を見せてくれた。はじめて見るが、可愛い娘だ。
あれっ?

イコマさん、生駒さん、リナちゃん、里奈ちゃん、ノギザカ、乃木坂、46、…。

どこかで触れたような気がする。
そうだ!年賀状だ!
大学の先輩からの今年の年賀状に「親戚の生駒里奈が、乃木坂46でデビューします。応援よろしく」と書かれていたのを思い出した。
意味がわからなかったので適当に読み流していたが、この方が生駒さんらしい。
先輩、凄いじゃないですか!
「この生駒さんって、僕の先輩の…」と僕は言いかけたが、すぐに止めた。
こんな話をしたら、サインでも頼まれかねない。
でも、こんな楽しい友人との再会ができるのも、渋谷区サッカー協会(SFA)が主催する毎年恒例の[渋谷区・伊豆諸島親善サッカー大会]があるからだ。
サッカーでの親睦を目的に、伊豆諸島の各島チームと渋谷区チームが集うこの大会も、今年で15回目。
今年もまた、この大会のために、開会式に来賓の方が来てくれた。
桑原敏武渋谷区長、栗谷順彦渋谷区議会副議長、清水正美神津島村教育長。
毎年、温かい激励のお言葉を、ありがとうございます。
本当に嬉しく、感謝しています。

でも僕はまだ、あの紙切れに書かれていた答えを見つけていません。
依然、旅の途中なのです。
答えの向こう側に、いったい何があるのだろう。
「さよならの向こう側」には、山口百恵さんがいたが…。

■ヒントは、「生駒」に隠されているのか?

今年の大会も、参加チームは、
八丈島、青ヶ島、三宅島、大島、神津島からはFC神津と神津VFCの2チーム、SFAからは渋谷選抜のミュンヘン渋谷(M渋谷)とSFA役員関係で構成された渋谷ユナイテッド(U渋谷)の計8チーム。
お馴染みの顔ぶれだ。
まず、8人制の予選リーグでは、これを4チームずつの2リーグ(ブンデスリーガ、プレミアリーグ)に分け、総当たり式で行われた。
再会、開会式での和やかな雰囲気もつかの間、両リーグとも試合はどれも激しいものばかりとなった。
ブンデスリーガでは、M渋谷が勝利を重ね、早くも首位を確実なものにしたと思ったが、3戦目で敗退。
最終戦まで順位が決まらない緊迫の展開となった。
一方プレミアリーグでは、やはり昨年の王者である八丈島の集中力が際立ち、渋谷U、神津VFC、大島を撃破し、こちらは全勝で首位を獲得した。

どの試合においても、選手たちの表情には笑顔があふれていた。
誰もが生き生きと走り、懸命にボールを追いかけている。
生駒さんがお気に入りの友人にいたっては、ボールばかりを追いかけて、クルクルとコマのように回っている。
そんな彼の姿を見ていたら、ふと、「俺の駒は生きている」という伝説の将棋棋士の名言を思い出した。
ただこの名言、寺山修司さんの「ポケットに名言を」には載っていないが…。

俺の駒は生きている?

駒? 生きている?

・・・。

生駒ではないか!

ここにも、生駒が!

もしかしたら「生駒」に、答えのヒントが隠されているのではないか…。

■選手たちの足跡が描いたものとは?「生駒」との関係は?

伝説の将棋棋士は裏の将棋界で命をかけた代打ちをしていた。
将棋界の「哭きの竜」のようだ。

友人が今年からお気に入りになった生駒ちゃん。
生駒ちゃんは僕の大学の先輩の親戚。
コマのようにクルクル回りながらプレイをする友人。
「俺の駒は生きている」という伝説の将棋棋士の名言。

この大会で起こったこれらすべての出来事は、やはりこの大会で繋がっているのではないか?
すべては、必然なのではないか?

答えはここにあるんだ。
「生駒にヒントが隠されているならば、答えはこの大会のどこかにあるはずだ」と僕は思った。

11人制の順位決定戦での僕は、それまでの僕ではなかった。
その走り、そのプレイは、すべて必然によって動かされていたと言っても過言ではない。
まるで、伝説の将棋棋士が操る将棋の駒のように。
次の一手、次の一手、と僕はがむしゃらにボールを追いかける。
時には歩のように一歩ずつ、時には飛車のように宙を飛び、時には蝶のように舞い、時には蜂のように刺すが如く、そのプレイは華麗だったに違いない。
そして、その華麗なプレイはグランド全体に行き渡り、すべての試合は光り輝いていた。

「青ヶ島 vs 神津VFC」は、最後まで勝敗がわからないくらいの接戦だった。
「三宅島 vs 大島」は、結果的に点数は開いてしまったが、最後まで両チームとも手を抜くことなく走り続けていた。
「FC神津 vs 渋谷U」は、ハイレベルなサッカーが行われた。
そして「M渋谷 vs 八丈島」は、高い集中力で、序盤から一瞬たりとも気の抜けない激しい攻防が繰り広げられた。

答えはどこかにあるはずだ。
答えは必ず見つかるはずだ。

しかし、試合は終わりを告げる。

この大会には感謝だ。
答えはまた見つからなかったが、今日と一日を素晴らしいものに演出してくれたこのグランドに、ありがとう。

僕はグランドに一礼をして、「来年もまた会おう」と再会の約束をグランドに誓った。

その時だった。
選手たちが試合で奏でた多くの足跡が、ナスカの地上絵のように、グランドにメッセージを浮かび上がらせるように感じた。

答えなのかもしれない。
生駒なのかもしれない。

僕は一目散に、グランドが一望できる高層階の建物に上がり、グランドを見下ろした。

あっ、あった!

選手たちの足跡は、グランドに文字を描き、そこに存在していた。

【生駒にふさわしい次の一手は?①3三金 ②2五角 ③7七飛車成】

僕の旅は、まだまだ続くようだ。

2012.02.20 並木橋のK